
大切な観葉植物や庭木に、いつの間にかびっしりと付いている白い綿のようなもの、あるいは茶色い粒々。「これは何だろう?」と不安に思っている方も多いのではないでしょうか。その正体は、植物の樹液を吸って弱らせてしまう「カイガラムシ」かもしれません。
カイガラムシは非常に厄介な害虫で、一度発生すると瞬く間に広がり、放置すれば植物を枯らしてしまうこともあります。さらに、ベタベタした排泄物は、見た目を損なうだけでなく「すす病」という病気の原因にもなります。
しかし、ご安心ください。カイガラムシは、その生態と弱点を知れば、効果的に駆除し、再発を防ぐことが可能です。
この記事では、カイガラムシの正体から、初心者でもすぐに実践できる物理的な駆除方法、効果的な農薬の使い方、そして農薬を使いたくない方向けの対策まで、あらゆる情報を網羅的に解説します。この記事を読めば、あなたもカイガラムシ対策の専門家になれるはずです。大切な植物を守るため、正しい知識を身につけていきましょう。
その白い綿、カイガラムシです!正体と被害を知ろう
まず、敵の正体を正確に知ることが対策の第一歩です。カイガラムシとはどのような虫で、植物にどんな影響を与えるのでしょうか。
カイガラムシとは?
カイガラムシは、カメムシやアブラムシと同じ「吸汁性害虫(きゅうじゅうせいがいちゅう)」の仲間です。植物の幹や枝、葉に寄生し、ストローのような口を突き刺して樹液を吸って生活します。
その最大の特徴は、多くの種類が自らの体をロウ物質や殻で覆っている点です。この防御壁のおかげで、薬剤が効きにくいという厄介な性質を持っています。
大きさや形、色は種類によって様々で、世界で数千種類、日本国内だけでも400種類以上が確認されています。代表的な種類を見てみましょう。
- コナカイガラムシ類: 白い粉や綿で覆われたような見た目が特徴です。比較的動き回ることができ、植物全体に広がります。
- カタカイガラムシ類: 硬い殻(カイガラ)を被っており、一度定着するとほとんど動きません。茶色や黒っぽいものが多く、枝や幹にびっしりと付着します。
- ワタフキカイガラムシ類: 白い綿の塊のような卵のう(卵が入った袋)を作るのが特徴で、非常に目立ちます。
カイガラムシが引き起こす深刻な被害

カイガラムシが植物に与える被害は、単に見た目が悪くなるだけではありません。
- 生育不良: 植物の栄養源である樹液を大量に吸われるため、生育が悪くなります。葉が変色したり、新しい枝や芽の伸びが悪くなったりし、最悪の場合は株全体が枯れてしまいます。
- 「すす病」の誘発: カイガラムシは、糖分を多く含んだベタベタした排泄物を出します。これを「甘露(かんろ)」と呼びます。この甘露を栄養源として黒いカビが発生するのが「すす病」です。葉や幹が黒いすすで覆われたようになり、光合成が妨げられて、さらなる生育不良を引き起こします。アリが植物に集まっている場合、この甘露が目的である可能性が高いです。
なぜ発生する?カイガラムシの主な発生原因
カイガラムシはどこからともなくやってくるように感じますが、発生にはいくつかの原因が考えられます。
- 風通しの悪さ: 枝や葉が密集して風通しが悪い場所は、カイガラムシにとって絶好の隠れ家です。湿気がこもりやすく、天敵からも見つかりにくいため、繁殖しやすくなります。
- 日当たり不足: 日当たりが悪いと植物は軟弱に育ち、害虫への抵抗力が落ちてしまいます。
- 窒素肥料の与えすぎ: 肥料の中でも、葉や茎の成長を促す「窒素」が多すぎると、植物の組織が柔らかくなり、カイガラムシが汁を吸いやすくなります。
- 外部からの持ち込み: 購入した新しい苗や鉢植えに、すでにカイガラムシの成虫や卵が付着しているケースも少なくありません。
【状況別】カイガラムシの駆除方法を徹底解説
それでは、具体的な駆除方法を見ていきましょう。カイガラムシの数や状況に合わせて、最適な方法を選ぶことが重要です。
基本は物理駆除!見つけたらすぐに対応

発生初期でカイガラムシの数が少ない場合は、薬剤を使わずに物理的に取り除くのが最も手軽で確実な方法です。
- 用意するもの:
- 歯ブラシ、ヘラ、竹串、綿棒など
- 軍手やゴム手袋
- 水を入れたバケツ
- ティッシュペーパーやビニール袋
- 駆除の手順:
- 歯ブラシやヘラなどを使って、カイガラムシを優しくこすり落とします。植物の幹や葉を傷つけないように注意してください。
- こすり落としたカイガラムシは、ティッシュで拭き取るか、下にビニールなどを敷いて受け止め、確実に処分します。地面に落としただけでは、再び植物に登ってくる可能性があります。
- 細かい部分や、コナカイガラムシのように動き回るタイプには、粘着テープで貼り付けて取る方法も有効です。
この方法は、農薬を使えない野菜やハーブ、室内の観葉植物にも安心して行えます。見つけ次第、根気よく続けることが大切です。
農薬(殺虫剤)を使った効果的な駆除

カイガラムシが大量に発生してしまった場合や、物理駆除では追いつかない場合は、農薬の使用を検討します。
【重要】薬剤が効きにくい理由と散布のタイミング
前述の通り、成虫は殻やロウ物質で守られているため、一般的な殺虫剤が効きにくいです。そのため、駆除のベストタイミングは、殻を持たない幼虫が多く発生する5月〜7月頃です。この時期を狙って薬剤を散布すると、効率的に駆除できます。
おすすめの薬剤の種類
カイガラムシに効果のある薬剤には、いくつかのタイプがあります。
- 浸透移行性剤(しんとういこうせいざい): 薬剤が根や葉から吸収され、植物の内部に行き渡ります。その樹液を吸ったカイガラムシを内側から退治する方法です。成虫にも効果が高く、「オルトラン粒剤」や「ベニカXファインスプレー」などが代表的です。粒剤は株元にまくだけなので手軽です。
- 気門封鎖剤(きもんふうさざい): 薬剤で虫の体を覆い、呼吸するための穴(気門)を塞いで窒息させるタイプの薬剤です。代表的なものに「マシン油乳剤」があります。これは成虫だけでなく、越冬中の卵にも効果がありますが、夏場の高温期に使用すると植物に薬害が出やすいため、主に冬の休眠期に使用します。使用時期や濃度は製品の説明書を必ず確認してください。
薬剤を使用する際の注意点
- 必ず製品ラベルの指示に従い、対象植物と使用方法、希釈倍率を守ってください。
- 散布は、風のない晴れた日の午前中に行うのが基本です。
- ペットや子供がいるご家庭では、薬剤が飛散しないように十分注意し、散布後は植物に近づかないようにしてください。
- 同じ薬剤を使い続けると、カイガラムシが抵抗性を持つことがあるため、異なる系統の薬剤をローテーションで使うのがおすすめです。
農薬を使いたくない方向けの駆除・予防方法
「できるだけ農薬は使いたくない」という方も多いでしょう。化学合成農薬を使わない方法もいくつかあります。
- 牛乳スプレー: 牛乳を水で薄めずにスプレーし、乾いた膜でカイガラムシを窒息させる方法です。散布後、牛乳が乾いたら必ず水で洗い流してください。放置すると腐敗臭やカビの原因になります。効果は限定的で、一時的な対策と考えるのが良いでしょう。
- 木酢液・竹酢液: 直接的な殺虫効果は低いですが、植物の健康を促進したり、独特の匂いで害虫を寄せ付けにくくしたりする忌避効果が期待できます。継続的に使用することで、害虫がつきにくい環境を作る手助けになります。
駆除後のケアと、もう発生させないための予防策

カイガラムシを駆除した後も油断は禁物です。再発を防ぎ、植物を健康に保つための予防策を徹底しましょう。
- 剪定(せんてい)で風通しを良くする: 最も重要な予防策です。混み合った枝や葉を定期的に剪定し、株の中心まで風と光が通るようにしましょう。
- 葉水(はみず)をこまめに行う: 霧吹きなどで葉の表裏に水をかける「葉水」は、乾燥を嫌うカイガラムシの発生を抑制する効果があります。また、初期のカイガラムシを洗い流すこともできます。
- 適切な管理を心がける: 日当たりを確保し、水のやりすぎや肥料(特に窒素)の与えすぎに注意して、植物そのものを健康に育てることが、害虫への一番の抵抗力になります。
- 新しい植物は要チェック: 新しく植物を迎え入れる際は、カイガラムシが付いていないか葉の裏や枝の付け根までよく観察する習慣をつけましょう。
【まとめ】根気強い対策で大切な植物を守り抜こう
今回は、厄介な害虫「カイガラムシ」の駆除と予防について、詳しく解説しました。
- カイガラムシの正体は、植物の樹液を吸う害虫。放置すると「すす病」を誘発し、植物を枯らすこともある。
- 駆除の基本は、歯ブラシなどでこすり落とす「物理駆除」。
- 大量発生時は、幼虫が発生する5月〜7月を狙って薬剤を散布するのが効果的。
- 最も大切なのは予防。剪定で風通しを良くし、植物を健康に育てることが一番の対策。
カイガラムシの駆除は、一度で終わらないことも多く、根気が必要です。しかし、今回ご紹介した方法を正しく実践すれば、必ず被害を抑えることができます。大切な植物を注意深く観察し、早期発見・早期対応を心がけて、緑のある豊かな暮らしを守っていきましょう。
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